「シャネル」が春画展を開催 春画とブランドをつなぐストーリーとは?

シャネルは東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホール(CHANEL NEXUS HALL)で、展覧会「ピエール セルネ&春画」を行っている。4月7日まで。喜多川歌麿や葛飾北斎ら、名だたる浮世絵作家による春画とフランスの現代作家ピエール・セルネ(Pierre Sernet)の作品を組み合わせた、時空を超えたコラボ展だ。

さて、“春画”という言葉から何を連想するだろう?春画は江戸時代には“笑い絵”とも称され、性描写と笑いが同居したユーモアあふれる芸術性の高い浮世絵として認知されていたという。だが、時代と共にイメージが変化し、時として色眼鏡で見られがちな母国日本に対し、海外での注目は年々高まりを見せている。その最たる要因は、2013年10月より約3カ月にわたって大英博物館で行われた展覧会「Shunga : Sex and Pleasure in Japanese Art (春画:日本美術における性のたのしみ)」展が成功を収めたこと。同展はおよそ9万人という来場者を迎えた。

こうした経緯をよく知る人物の一人が、今回のシャネル・ネクサス・ホールでの展覧会に春画のコレクションを出品している浦上満氏。浦上氏は、東洋古美術の専門美術商「浦上蒼穹堂」創立者であり、前述の大英博物館の春画展にも出品者ならびにスポンサーの一人として協力した人物だ。氏いわく、「(性的描写の部分で日本では色物として扱われることもあるが)良い春画はきれいなんです」。ちなみに、浦上氏は父親が浮世絵ならびに東洋陶磁のコレクターで、山口県立萩美術館の浦上記念館は、その名の通り浦上氏の父親が浮世絵と東洋陶磁を寄贈したものだ。そんな家庭環境も伴い、浦上氏が学生時代に魅了され収集した「北斎漫画」(葛飾北斎のスケッチ画集)は1500冊ほどに上るという。

大英博物館での展覧会後、海外からは浦上氏に続々と春画コレクションの出品依頼が届いた。そんな中、浦上氏は日本での春画展の開催を夢見て、その実行委員会の中心人物として奔走。そして遂に15年9月、東京・目白台の永青文庫にて念願の「春画展」を実現した。この展覧会の図録作成にあたり寄稿を願った人物こそが、日本文化に造詣の深いリシャール・コラス氏(Richard Collasse、シャネル(株)の前社長で、現在は同取締役会長兼本国のトラベル・リテール事業の責任者)。その時の出会いがおよそ4年の歳月を経て、シャネル・ネクサス・ホールでの本展開催につながった。

「ピエール セルネ&春画」展はコラス氏の発案により実現。春画と絶妙な“対”をなすのは、パフォーマンスアーティスト・写真家として活躍するピエール・セルネの写真作品「Synonyms(類似表現)」だ。彼のミニマル・アートとも称したい、極シンプルなラインが描写するセクシーな作品は、鑑賞者のイマジネーションの世界を豊かに花開かせてくれる。「文化的、民族的に異なる背景を持つ個人とカップル、両方の肉体を撮影した。直接的ではなく、彼らの影が残す束の間のカタチだけを記録することを選んだ」と、セルネ氏はコメントしている。モノクロのシルエットが浮かび上がる作品と、その被写体の名前のみが記されたタイトル。そこには、性別、国籍を超えて派生する多様性と共通性、そして異なる文化の受容、という作家の深遠なる思いが込められていると聞き、心ときめく。

本展では、シャネルならではのエスプリの効いた会場構成も楽しみの一つにもなっている。あたかも江戸時代と現代を自在に行き交う“アートな春”の小路散歩のような設えがお待ちかねだ。なお本展は前期と後期で作品の入れ替えが行われる。また4月13日から5月12日まで開催されるKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭のプログラムとして巡回予定だ。

ウサミヒロコ:幼少期より関心の高かった「デザイン」(ファッション&シネマ、アート&インテリア、ウエルネス&グルメなど)への情熱を、FMラジオ番組制作からスタートし、雑誌、書籍、新聞、ウェブなどのメディアにて、国内外問わずさまざまなチームプレーで活動を続けるライフスタイルジャーナリスト。取材を通じて訪れる国々で出会う、多国籍の人々との交流を愛する東京オリンピック開催地周辺生まれの東京人

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